多発性骨髄腫に対する一連の治療戦略の中で重 要な位置づけにある. 本稿では,多発性骨髄腫における骨病変の発 症機序や画像診断の特徴を概説し,骨病変に対 する管理や治療のポイントについて論述する. 1.骨病変の発症機序 多発性骨髄腫は抗体を作る形質細胞ががん化する病気で、高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変などの症状が起きる病気です。かつては症状が現れてから治療を開始していましたが、現在はそれより早い段階で治療が始められるようになっています。自家造血幹細胞移植の適応があれば、移植が推奨されています。移植の適応がない場合には化学療法が行われます。多発性骨髄腫の治療薬は、9種類の新規薬剤が中心となっています。移植をするための前治療としての導入療法や、移植の適応がない場合の化学療法にも使われています。新規薬剤の登場により、多発性骨髄腫は長期間にわたって病気をコントロールすることが可能になっています。, 赤血球、血小板、白血球など血液を構成する細胞のうちの白血球の1つであるB細胞から分化して作られる形質細胞ががん化することで起こるのが、多発性骨髄腫という病気です。, 形質細胞ががん化してできた骨髄腫細胞は、骨髄内で異常に増殖するため、正常な造血機能が抑えられてしまいます。そのため、赤血球が不足すると貧血が起き、白血球が不足すると感染症、血小板の不足は出血するなどのさまざまな症状が起きます。, 形質細胞ががん化すると、細菌やウイルスなどから体を守るために形質細胞が作り出す正常な抗体が減少します。そのため、免疫の働きが低下してしまい、感染症を起こしやすくなります。また、がん化した形質細胞は、正常な抗体を作れなくなっただけでなく、Mたんぱくという異常なたんぱく質を作り出してしまいます。このMたんぱくが血液中に増加すると腎臓が障害されるので、腎臓機能の低下が起きるようになります。, また、がん化した形質細胞は、骨を溶かす破骨細胞の働きを活性化させます。さらに骨を作る骨芽細胞を抑える物質を作っていることもわかっています。そのため骨が弱くなり、骨折が起きやすくなります。また、骨が溶けるので、血液中のカルシウム値が上がります。, 多発性骨髄腫によって引き起こされるこれらの症状を、高カルシウム血症(hyper Calcemia)、腎障害(Renal failure)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone lesion)から4文字をとって「CRAB」といいます。, 多発性骨髄腫は高齢者に多い病気なので、高齢者が増えている日本では増加しています。かつては人口10万人当たり3人ほどでしたが、現在は10万人あたり5人以上になっています。, 多発性骨髄腫を発見するのに有効な検査は、血液検査と画像検査です。血液検査で、高カルシウム血症、腎機能の低下、貧血、総たんぱくの上昇、アルブミン値の低下などがあれば、多発性骨髄腫の可能性があります。画像検査では骨折の有無を調べます。大きな骨折はX線撮影でわかりますが、CT、MRI、PETなどを行えば、ごく小さな骨病変でも見つけることができます。, こうした検査を行ない多発性骨髄腫の疑いがあれば、骨髄検査で確定診断を行います。骨盤の骨に針を刺し、骨髄液を抜き取って調べ、形質細胞の比率が10%以上に増えていると多発性骨髄腫と診断されます。また、確定診断のためには、血清中の免疫グロブリンを調べる血清免疫固定法検査や、血清FLC(フリーライトチェーン)検査も必要になります。, 多発性骨髄腫は、年齢、病型、病期、合併症などにより病状の経過が異なります。その他にも予後因子があり、治療に対する効果判定や予後予測が行われます。, 多発性骨髄腫のステージ(病期)は、腫瘍の量と予後因子により、I~IIIの3段階に分けられます。アルブミン値(Alb)とβ2ミクログロブリン値(β2MG)に加え、染色体の異常も調べて判定します。Ⅰ期はAlb≧3.5g/dLかつβ2MG<3.5mg/dL、Ⅲ期はβ2MG≧5.5mg/dL、Ⅱ期はそれ以外、となっています(表1参照)。, 染色体に関しては、「17番欠失」「4:14番転座」「14:16番転座」があると予後が悪いことがわかっています。, 以前は、血液検査や骨髄検査で異常が見つかっていても、症状(CRAB)が現れていなければ治療する必要はないとされていました。症状がない段階を「くすぶり型骨髄腫」といいますが、この段階で治療を始めても、かつては生存期間を延ばすことができないため、骨折や腎不全が起きてから治療を始めていました。最近は新薬が登場したこともあり、もう少し早い段階で治療を開始することが推奨されています。, 現在では、(1)骨髄の形質細胞比率が60%以上、(2)血清FLC比率が100以上、(3)MRIにて2か所以上の5mm以上の限局性骨病変、のいずれかがある場合には、治療を開始することが推奨されています。, 多発性骨髄腫の薬物療法は、かつては抗がん剤のメルファラン(製品名:アルケラン)とステロイド剤のプレドニゾロンを併用するMP療法が中心でした。しかし、近年になって新規薬剤が次々と登場し、現在は9種類になっています。それにより、長期間にわたって病状をよい状態にコントロールできるようになってきました。, 9種類の新規薬剤は、プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブ)、免疫調整薬(サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド)、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬(パノビノスタット)、抗体薬(エロツズマブ、ダラツムマブ)に分類されています(表2参照)。, 9種類の新規薬剤のうち、未治療の多発性骨髄腫の治療に使用できるのは、ボルテゾミブとレナリドミドの2種類だけです。他の7種類は、再発・難治性多発性骨髄腫の治療薬として認可されています。再発した場合や、他の薬で治療して効果がなかった多発性骨髄腫の治療に使用することができます。, 未治療多発性骨髄腫の治療は、自家造血幹細胞移植の適応があるかないかによって、大きく2つに分けられます。「65歳未満・重篤な合併症なし・心肺機能正常」が適応の条件です。65歳は一応の目安で、全身状態が良好であれば、それ以上でも移植が行われることはあります。, 自家造血幹細胞移植は、自分の末梢血から造血幹細胞を採取し、大量化学療法で骨髄中の細胞を死滅させた後、採取しておいた造血幹細胞を戻す治療です。移植した細胞は10日ほどで生着し、細胞の増殖が始まります。自分の細胞を戻す治療なので、他の人の幹細胞を移植する同種移植とは異なり、副作用が少なく、免疫抑制剤も必要ありません。, 導入療法として、新規薬剤を含む3剤併用療法が行われます。基本的に65歳未満なので、3剤併用にも十分に耐えられるからです。よく行われているのが、「ボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン療法(BLd療法)」で、これを3~4コース行った後に末梢血中の幹細胞を採取します。, その後の大量化学療法ではメルファランが使われます。メルファランを通常の治療で使用する場合の用量は9mg/m2程度ですが、大量療法の用量は200mg/m2です。これによって、通常の投与量では死滅させられなかった腫瘍細胞を死滅させます。その後、採取しておいた自分の造血幹細胞を戻します。, 自家造血幹細胞移植が適応にならない患者さんには、化学療法が行われます。高齢者が中心となることもあり、ボルテゾミブとレナリドミドの両方を含む併用療法は困難な場合も多いので、「レブラミド+デキサメタゾン療法(Ld療法)」あるいは「メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ療法(MPB療法)」が推奨されています。, 高齢者に対して、「ボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン療法(BLd療法)」をそれぞれ減量した「BLdライト療法」が行われることもあります。臨床試験データがまだ十分ではありませんが、非常に成績がよく、副作用が少ないことが明らかになりつつあります。, 初回治療の最終投与日から9~12か月以上経過してからの再発や再燃した場合は、初回導入療法で使用したプロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブ)や免疫調整薬(レナリドミド)を含む2~3剤を併用する救援療法を行うか、初回治療で使用していない薬に変更します。, 初回治療終了後9~12か月未満に再発や再燃、進行や増悪した場合には、初回治療のキードラッグの効果が期待できないため、初回治療で使用していないキードラッグを含む救援療法が推奨されます。, どの薬をどのような順番で使用すればよいのかについては、明確にはなっていません。初回治療によって長期間の安定が得られた場合には、初回治療で用いた併用療法を繰り返してもよいことになっています。, 再発・難治性の治療では、薬の投与時間や通院回数なども考慮します。たとえば、プロテアソーム阻害薬のカルフィルゾミブは、優れた効果を発揮する薬ですが、注射薬なので4週のうち3週は週2回通院する必要があります。これに対し、「レブラミド+デキサメタゾン療法(Ld療法)」なら、レブラミドは経口剤なので、月に1回の通院ですみます。ボルテゾミブは注射薬で週に1回の通院が必要です。これに対し、同じプロテアソーム阻害薬のイキサゾミブは経口剤で、月に3回内服すればよく、月に1回の通院ですみます。どのような治療を選択するかは、このようなことも考慮して総合的に判断するとよいでしょう。特に患者さんが高齢の場合や、病院が遠い場合などは、通院が大きな負担になることがあります。, 多発性骨髄腫の治療薬は、近年次々と新薬が登場していますが、進行中の治験がいくつもあり、この状況はまだ続きます。現在、次のような薬の治験が進行中です。, 患者さん自身の末梢血からT細胞を採取し、がん細胞を攻撃するように遺伝子の組換えを行った後、培養して患者さんに戻す治療です。遺伝子治療と免疫治療を合わせたような治療といえます。アメリカでは非ホジキンリンパ腫とB細胞性急性リンパ芽球性白血病の治療薬として認可されています。, 染色体に「11:14番転座」がある多発性骨髄腫に対しては、単剤でもよく効くとされています。それ以外に対しても、併用では効果が期待できます。, がん抑制たんぱくを核内にとどめる作用を持つ薬です。がん細胞はがん抑制たんぱくを核内から出してしまうので、それをとどめることで増殖を抑制します。, ベネトクラクスとセレネキソールは、これまでの新規薬剤とまったく異なる作用機序を持っている薬です。また、どちらも経口剤です。, これらのほか、現在使用されているダラツムマブの投与方法に関する治験も進行中です。従来は点滴で4時間かけて投与されていますが、皮下注射で投与した場合の有効性と安全性を調べる試験が行われています。皮下注射だと投与に要する時間は5分間になります。, カフェで学ぼうがんのこと「子宮体がんと妊孕性(にんようせい)温存の可能性について」, G-CSF単独※11、HD-CPA+G-CSF※12または、G-CSF+プレリキサフォル※13などで末梢血幹細胞採取. 多発性骨髄腫では骨髄腫細胞の影響で骨が弱くなり、骨折しやすくなる(病的骨折)。 *4 脊髄圧迫症状:脊椎が変形して神経が圧迫されるために生じる疼痛(とうつう)・手足のしびれ・麻痺、排尿・排便の障害などの症状を指す。 多発性骨髄腫による症状(合併症)を改善する治療について 骨病変、高カルシウム血症、貧血、腎不全、感染症、神経障害などの合併症の症状は、骨髄腫に対する薬物療法で軽減する場合もありますが、合併症そのものを対象とした治療を行うことも重要です。 多発性骨髄腫の治療法は日進月歩です。今では、病気の進行や症 状をコントロールしながら、長くつきあう病気になってきています。 1 多発性骨髄腫について 多発性骨髄腫は、体内に入ってきた異物など、 … ¨ï¼é è¡å¨è
«ç診çã¬ã¤ãã©ã¤ã³ 2013å¹´WEBçï¼ç¬¬1.2çï¼ï¼æ¥æ¬è¡æ¶²å¦ä¼. 骨病変、高カルシウム血症、貧血、腎不全、感染症、神経障害などの合併症の症状は、骨髄腫に対する薬物療法で軽減する場合もありますが、合併症そのものを対象とした治療を行うことも重要です。, 多発性骨髄腫の合併症の中には、緊急対応が必要なものと、骨髄腫の治療と並行して治療するものとがあります。, 大部分の多発性骨髄腫は診断時点で骨破壊によって頭蓋骨や脊椎などの骨がもろくなっており、初診時で約5割の人に骨の痛みがみられます。こうした骨病変がある人は、ビスフォスフォネート製剤ゾレドロン酸の点滴投与やデノスマブの皮下注射を行うと、骨髄腫による骨の破壊が抑えられます。, 腎障害のある人は、ゾレドロン酸の減量投与やデノスマブを選択します。どちらの薬も歯肉の感染や抜歯などの傷が治らなくなる顎骨壊死を起こしやすいので、事前に歯科医のチェックを受け、口腔ケアを行うことが重要です。デノスマブはけいれんや不整脈を引き起こすこともある重い低カルシウム血症の副作用が出やすいので、予防のためにビタミンD、カルシウム剤を併用します。, 骨折しているときや骨がもろくなっている場合に、患部の骨を補強する手術が必要なこともあります。脊椎の圧迫骨折がある場合は、コルセットを着けると骨折の進行を抑えられ、痛みが軽減します。骨の痛みの治療には放射線照射も有効です。非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)は腎障害を起こしやすいので、漫然と使わないよう注意します。, また、中腰、重いものを持ち上げるなど骨に負担をかけないようにし、しりもちをつくようなことがないよう注意します。ただし、過度の安静は筋力低下や骨がもろくなるもとです。担当医に相談し、散歩など無理のない運動を続けましょう。, 高カルシウム血症は、食欲の低下や脱水症状を引き起こし、腎不全や意識障害につながる恐れがあり、迅速な対応が必要です。生理食塩水を点滴し脱水症状を改善させるほか、心臓への負担を減らし尿へのカルシウム排泄を促すため、利尿薬も投与します。, また、高カルシウム血症の治療には、骨病変の治療と同様にゾレドロン酸の点滴投与が有効で、腎障害のある人には、デノスマブの皮下注射を行います。, 多発性骨髄腫の治療によって改善する場合が多いですが、貧血がひどいときは、赤血球の輸血を行います。腎機能の低下による貧血には、赤血球を増やすエリスロポエチン製剤を注射することもあります。, ボルテゾミブを含む多剤併用の薬物療法で改善することが多いので、できるだけ早く多発性骨髄腫の治療を開始することが重要です。腎機能を回復させるためには、水分を多めに摂取するようにします。むくみがひどい場合には利尿薬を使うこともあります。, 腎機能がかなり低下しているときには、一時的に人工透析を行います。人工透析は、腎臓の代わりに透析器で老廃物や余分な水分をろ過し、体の外へ排出する治療法です。, インフルエンザ流行期には、感染を予防するため、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの投与が推奨されます。ただ、多発性骨髄腫になるとワクチンによる抗体をつくる力が低下するので、健康な人に比べて効果が低い恐れがあります。造血幹細胞移植時やボルテゾミブを使うときには、帯状疱疹を発症しやすいため、抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビルを予防的に服用します。, 脊髄圧迫による知覚障害や運動麻痺が起こったら、早急に放射線照射やステロイド薬による治療を開始します。, 血液中にM蛋白が多くなると、血液がドロドロになり、めまい、頭痛、目が見えにくくなるといった症状が出る過粘稠度症候群になります。M蛋白の急速な除去が必要な場合、M蛋白を含む血けっしょう漿を除去し、健康な人の凍結血漿を入れる血漿交換を行います。, 本コンテンツは認定NPO法人キャンサーネットジャパンが2015年11月に出版した「もっと知ってほしい 多発性骨髄腫のこと」より抜粋・転記しております。, このサイトは、 信頼できる医療・ 健康情報のための 倫理標準である HONcodeの条件を満たしています。 こちらから確認してください。, がん情報サイト「オンコロ」は3Hメディソリューション株式会社/3Hクリニカルトライアル株式会社が運営しています。.